自動車部品メーカーの品質検査記録をiPad×AIで電子化し、検査工数を月600時間削減
製造業
Manufacturing

自動車部品メーカーの品質検査記録をiPad×AIで電子化し、検査工数を月600時間削減

自動車部品メーカーの品質検査工程で、紙チェックシートとデジカメ別管理が常態化し、月末転記作業と改善サイクルの遅れが課題だった。XECINはSwift製iPadアプリとAWS上の画像分類AIを組み合わせた現場完結型の検査基盤を構築。転記作業の完全廃止と不良傾向の即日可視化を実現し、検査工数を月600時間削減した。

Client
自動車部品 J社
Industry
Manufacturing
Period
2026
Tech
製造業 / 品質管理

背景と課題

自動車部品 J社は国内外の自動車メーカーへ精密部品を供給する専業メーカーです。製品の品質基準は顧客から厳格に定められており、品質保証部門には長年にわたって多くの人員が配置されてきました。しかし、その検査工程は紙チェックシートとデジカメを組み合わせたアナログ体制のままで運用されており、規模の拡大とともに次の課題が顕在化していました。

  • 紙チェックシートの転記負荷:検査記録は検査票に手書きで記録し、月末にまとめて基幹システムへ転記する運用でした。この転記作業は品質保証部門の固定残業要因となっており、本来の品質改善活動に充てるべき時間を圧迫していました。
  • 写真記録と検査記録の分離:不良品の写真記録はデジカメで別途撮影し、帰社後にファイル名をリネームして検査票と紐付ける手作業が発生していました。誤紐付けのリスクを常に抱えたまま運用していました。
  • 改善サイクルの遅れ:不良傾向の分析は月次集計後にしか実施できず、ライン側の改善アクションが発動するまで常に1か月以上のタイムラグが生じていました。
  • 検査員間の判定ばらつき:判定基準が熟練者の経験に依存しており、新人検査員が配属された直後は見逃しが増加してクレームにつながるケースが繰り返していました。

品質データのリアルタイム活用と、属人化していた判定業務の平準化を両立するため、XECINへご相談をいただきました。

XECINのアプローチ

まず現場の検査員に実地ヒアリングを行い、1日の検査動線と検査票の記入タイミングを詳細に可視化しました。ツールを導入する前提で設計するのではなく、「現場が自然に使い続けられる体験」を最優先に定め、その要件を技術選定の基準にしました。

  • 現場ファーストのUI設計:片手で操作できるiPadアプリのUIを優先設計。撮影・検査項目入力・確認を1画面に集約し、デジカメやPCを別途必要としない構成にしました。
  • AI判定支援の適切な位置づけ:過去の不良画像で学習した画像分類モデルを初期判定の「補助表示」として組み込みました。AIが判定を強制するのではなく、検査員が最終確認を行う支援ポジションに留めることで、現場の信頼感と安全性を両立しました。
  • 段階移行による定着の確保:パイロットラインでの検証フェーズを設け、現場からのフィードバックをアプリに反映してから全ライン展開することで、稼働後の定着率を高めました。

実施内容

体制

XECIN側はプロジェクトマネージャー1名、iOSエンジニア1名、バックエンドエンジニア1名、MLエンジニア1名の4名体制で対応しました。J社の品質保証部門・IT部門と2週間ごとのスプリントレビューを設け、現場検査員からのフィードバックを毎スプリントに反映しました。

技術領域

iPadアプリ(Swift)

Swiftで実装したネイティブiPadアプリを中心に据えました。撮影・検査項目入力・AI判定補助の表示を1画面に集約し、操作ステップを最小化しています。オフライン環境でも記録を継続できるよう、ローカルストレージに一時保存してネットワーク復帰時にAWSへ同期する構成を採用しました。

  • 撮影と記録の一体化:不良品を撮影した瞬間に検査記録IDと自動紐付けされ、後からのリネーム作業が不要になりました。
  • チェックリストUI:検査項目はタップで選択できる構成とし、手書きと比べて1件あたりの記録時間を大幅に短縮しました。

画像分類モデル(Python × TensorFlow)

過去3年間の不良品画像データをもとにTensorFlowで学習した画像分類モデルをAWS Lambda上に展開しました。撮影後にLambdaへリクエストを送ると推論結果が返り、「要確認」「問題なし」の初期判定が補助表示されます。モデルは月次の再学習で精度を継続的に改善する仕組みを構築しました。

データ基盤(AWS)

検査記録と画像はAWS DynamoDBとS3にリアルタイムで保存されます。AWS Lambdaを介して集計したデータを管理者向けダッシュボードで可視化し、不良傾向をライン・部品品番・検査員単位で即日確認できます。

インフラ / 監視

  • AWS Lambda + S3によるサーバーレス構成でスケーラビリティを確保
  • CloudWatch Alarmsによる推論エラー・同期失敗の検知とSlack通知を設定し、夜間の無人監視を実現

成果

パイロットライン稼働から6か月間で以下の成果が確認されました。

  • 転記作業の完全廃止と写真自動紐付けにより、品質保証部門全体で月600時間を超える工数を削減
  • 不良傾向の可視化サイクルが月次→日次に短縮し、ライン改善のリードタイムが大幅に縮小
  • AI支援による初期判定補助の導入で、検査員間の判定ばらつきが約30%減少。新人配属直後の見逃し件数も顕著に減少
  • 検査画像と記録のクラウド一元管理により、客先からの品質エビデンス要求への対応が翌営業日→当日中に短縮

「現場が自然に使い続けられる設計で、導入後に定着を強制する必要がなかった点が高い評価です」と、J社品質保証部長からのご評価をいただいています。

継続支援

現在もXECINは月次でモデルの再学習と精度検証を継続しています。第2フェーズとして、不良発生時に工程担当者へ自動通知を送る仕組みの実装と、検査画像を活用した品質トレンドレポートの自動生成機能についても要件整理を進めています。