工業製品メーカーの社内品質保証体制を構築し、ソフトウェア開発の品質管理手法を製造現場に移植
工業製品メーカーの品質保証活動を属人的な運用から脱却させ、組織として継続運用できる品質保証体制を構築した事例です。PMBOK・SQuBOK・ISO/IEC 25010を土台に演繹×帰納のハイブリッドアプローチで品質指標体系を設計し、顧客独自の社内品質保証基準の制定まで伴走しました。
背景と課題
K社は産業機械・精密部品を製造する工業製品メーカーです。近年は顧客の品質要求水準が高まり、ISO 9001 の認証取得を通じて品質マネジメント規格の枠組みは整備されていました。しかし日常の品質保証活動は現場のベテランリーダーの経験知識に大きく依存しており、担当者が異動・退職するたびに評価基準や改善プロセスが揺らぎ、組織知として蓄積されないことが長年の課題でした。
- 品質保証活動の属人化:検査基準の設定から不具合の原因究明まで現場リーダーの経験に依存しており、担当者が替わるたびに判断のばらつきが生じ、せっかくの改善成果が次の担当者に引き継がれない状態が続いていた
- KPI設計と日次運用の不足:ISO 9001 は取得済みだったが、定量的なKPI設計と日次業務への落とし込みが弱く、改善サイクルが年次レビュー時の単発活動に留まっていた。同種の不具合が翌月に再発するパターンが常態化していた
- 汎用フレームの直接適用リスク:ソフトウェア開発由来の運用指標(SLO/SLI・DORA Metrics など)は工業製品の品質指標とは直接対応せず、フレームをそのまま導入すると現場で形骸化するリスクが高かった
- 現場定着への懸念:新しい体制を整備しても運用負担が増えれば定着しないため、品質情報の収集・集計フローを既存の業務動線に組み込む設計が不可欠だった
「品質保証活動が人に依存していて組織の財産になっていない。担当者が変わるたびに同じ問題を繰り返している」という品質保証部門長の問題意識から、XECINへ品質保証体制の再設計と定着支援をご相談いただきました。
XECINのアプローチ
PMBOK・SQuBOK・ISO/IEC 25010 を設計の土台に置きながら、SLO/SLI・DORA Metrics のソフトウェア運用指標思想を演繹的に展開し、同時にK社固有の現場データから帰納的にKPI候補を抽出する双方向アプローチを採りました。汎用フレームをそのまま導入して形骸化する事態を避けるため、常に「この指標は現場での計測・改善判断に実際に使えるか」を基準に体系を絞り込みました。
- 演繹的な指標導出:PMBOK・SQuBOK・ISO/IEC 25010 の各標準から製造現場で有効と判断される品質特性と評価指標を体系的に導出し、候補リストを構築
- 帰納的なKPI抽出:過去3年分の検査記録・不具合発生履歴・是正処置データを分析し、再発率が高いパターンと改善インパクトの大きい測定ポイントを特定
- 突き合わせによる体系最適化:両方向から得られた指標群を対照させ、重複・矛盾を解消しながら現場の運用負担を最小化した品質指標体系に整理
実施内容
体制
XECINからプロジェクトマネージャー1名、品質保証コンサルタント1名を配置しました。K社側は品質保証部門のリーダー2名、製造現場のリーダー計4名が参加し、週次の進捗ミーティングと月2回の現場ヒアリングを継続することで、設計内容と実態のギャップをそのつど修正しながら進めました。
品質指標体系の設計
演繹×帰納によるKPI策定
PMBOK のプロジェクト品質管理プロセス・SQuBOK の品質特性分類・ISO/IEC 25010 の製品品質モデルを参照しながら、製造業の文脈で適用可能な指標を60以上の候補として書き出しました。並行してK社の不具合データを時系列・製造ライン別・製品カテゴリ別に分析し、改善効果が高い測定ポイントを帰納的に抽出しました。
候補指標を「即日測定可能」「月次測定可能」「測定に追加工数が必要」の3段階に分類し、運用フェーズを分けた導入計画を立案。最終的に日次運用で継続できる10指標、月次集計で評価する8指標という体系に整理し、品質保証部門・現場リーダー双方の承認を得ました。
既存業務動線への統合
新しい品質情報の収集フローを別途追加するのではなく、すでに実施している日次の検査記録・週次の不具合報告フォームを改訂する形でデータ取得を実現しました。既存の記録業務に最小限の入力項目を追加するだけで指標が自動集計される設計とし、現場担当者の入力負担を抑えることで定着への抵抗を最小化しました。
PDCAサイクルの定着支援
指標体系の設計後は、実際の運用データをもとに基準を継続改訂する「高速PDCAの定着」を3ヶ月かけて支援しました。初月は週次で品質保証部門と振り返りを実施し、各指標の算出方法・閾値の妥当性・改善アクションとの結びつきを確認しました。2ヶ月目以降は現場リーダー主導で週次レビューを運営できるようになり、3ヶ月目にはフィードバックをもとにした自律的な基準改訂が定着。年次レビューに集中していた改善サイクルが、日次・週次の高速PDCAへと移行しました。
社内品質保証基準の制定
定着フェーズを経て、K社独自の社内品質保証基準をドキュメントとして制定する作業を伴走しました。標準フレームの参照条項・独自の品質指標定義・指標の測定方法・改善アクションのトリガー条件を一冊の基準書にまとめ、新規製品ラインへの横展開を可能にする再現性ある形式に整理しました。
成果
品質保証体制の再設計と定着支援を通じて、以下の成果が得られました。
- 品質保証活動の評価軸が定量化され、属人的判断に依存していた改善サイクルが組織横断のKPI運用に移行。担当者が替わっても評価基準が揺らがない状態を実現した
- 演繹×帰納のハイブリッド設計により汎用フレームをそのまま導入した場合の形骸化を回避し、現場データと整合した指標体系が確立。現場主導の改善文化が定着した
- 改善サイクルが年次レビュー型から日次・週次の高速PDCAへ移行し、不具合検知から是正完了までのリードタイムが大幅に短縮された
- プロジェクト終了後、顧客独自の社内品質保証基準が正式制定され、新規製品ライン展開時にも横展開可能な再現性ある仕組みとして社内に根付いた
「今まで品質保証はベテランの勘というイメージが強かったが、指標が見えることで現場全体が自分たちの問題として取り組むようになった。新人でも判断基準が分かるようになったのが特に大きい」という声をいただきました。
継続支援
現在は制定した品質保証基準の年次改訂サイクルの支援と、新規製品ラインへの横展開を伴走しています。今後は品質データの可視化ダッシュボードの構築や、検査記録のデジタル化によるリアルタイム分析基盤の整備も視野に入れ、データドリブンな品質保証体制のさらなる高度化を支援していく予定です。