機材制御クラウドシステムへの動画教材配信機能追加で現場教育をデジタル化
工作機械・計測機器の制御を管理するクラウドシステムを自社運用する工業機械メーカーが、現場作業員の機材操作教育を紙マニュアルと現地研修に依存していた課題に直面していました。既存システムの認証基盤を活用しながらAWSのメディアサービスで動画ストリーミング配信機能を追加し、新入社員の機材操作習得期間を約40%短縮しました。
背景と課題
工業機械 M社は、生産ラインで使用される工作機械や計測機器の制御・保守を一元管理するクラウドシステムを自社開発・運用している工業機械メーカーです。主要工場と国内外の現場拠点を複数抱え、現場作業員の機材操作スキルの均一化が長年の課題となっていました。
- 現地研修への依存と拠点間の教育格差:機材の操作教育は経験豊富な担当者による現地研修と紙マニュアルが中心で、地方・海外拠点では研修講師の派遣コストと時間的制約から、教育品質に拠点間のばらつきが生じていました
- 新入社員の即戦力化に時間がかかる:現場で実機を操作しながら覚える方法が主体のため、新入社員が機材操作を独力でこなせるようになるまで平均3ヶ月を要しており、生産ラインへの配属が遅れる原因となっていました
- 既存システムとの認証統合が必要:機材制御クラウドシステムには独自の認証・権限管理基盤があり、動画配信を別システムとして立ち上げると二重管理が生じるため、既存システムと統合した形での構築が求められました
- 教材更新の工数が大きく更新頻度が低い:機材の仕様変更やファームウェア更新に合わせて教材を改訂する際、変換・配布の作業が煩雑なため、実際の機材仕様と教材内容のずれが発生しやすい状況でした
こうした状況を改善するため、既存の機材制御クラウドシステムに動画ストリーミング配信機能を追加するプロジェクトをXECINにご依頼いただきました。
XECINのアプローチ
既存システムを刷新するのではなく、現行の機材制御クラウドシステムのアーキテクチャと認証基盤を最大限活用しながら、動画配信機能をモジュールとして追加する方針を採用しました。
- 既存認証基盤の分析と連携設計:機材制御システムのJWT認証・権限モデルを精査し、動画コンテンツへのアクセス制御にCloudFront Signed URLを組み合わせる設計を策定
- AWSマネージドサービスによる動画パイプラインの構築:S3へのアップロードをトリガーにAWS MediaConvertでエンコードし、CloudFrontで配信するサーバーレスパイプラインを設計・実装
- 段階的な機能リリース:既存システムへの影響を最小化するため、機能別にリリースを分割し、並行稼働期間のフィードバックを反映しながら本番展開
実施内容
体制
XECINからバックエンドエンジニア2名とインフラエンジニア1名の計3名が参画しました。M社の機材制御システム開発チームおよび人材育成部門と週次定例を設け、要件の確認とフィードバックを受けながら実装を進めました。
技術領域
動画配信パイプラインの構築
教材動画のアップロードをS3バケットへのPUT操作で受け付け、EventBridgeでAWS Lambdaを起動してAWS MediaConvertのエンコードジョブを自動実行するパイプラインを構築しました。エンコードは720p・1080pの2解像度で並列実行し、完了後はCloudFront用の配信バケットへ自動配置されます。エンコード状態はLambdaがDynamoDBに書き込み、管理画面からリアルタイムに確認できます。
既存認証システムとの連携
機材制御システムのバックエンド(Spring Boot)が発行するJWTトークンを動画APIでも検証し、動画へのアクセスにはCloudFront Signed URLを使用することで、未認証アクセスをエッジで遮断する構成を実現しました。権限モデルも機材制御システムと共通化しており、機材ごとに閲覧可能な教材コンテンツをロールベースで制御できます。
フロントエンドへのプレイヤー統合
既存の機材制御クラウドシステムのフロントエンド(React)に動画プレイヤーコンポーネントを組み込みました。プレイヤーにはHLS形式のアダプティブストリーミングを採用し、現場の通信環境に応じてビットレートが自動調整されます。視聴進捗はAPIを通じてDynamoDBに記録され、受講管理画面で担当者が拠点・人員ごとの進捗を確認できます。
インフラ支援
動画コンテンツの保管・配信に使用するS3バケットとCloudFrontディストリビューションのIAMポリシーは、機材制御システムの既存ポリシー設計に準拠して最小権限原則で構成しました。MediaConvertへのアクセス権限は専用のIAMロールに分離し、本番・ステージングの環境分離はCloudFormationテンプレートで管理しています。
成果
リリース後3ヶ月間の運用データをもとに成果を確認しました。
- 新入社員の機材操作習得期間を約40%短縮:現場配属前にオンデマンドで繰り返し学習できる環境が整い、平均習得期間が3ヶ月から約1.8ヶ月に短縮されました
- 年間現地研修コストを約35%削減:集合型研修の頻度を減らし、基礎操作の習得は動画で完結させることで、出張費・講師工数を削減しました
- 教材更新作業がほぼゼロ工数に:動画をS3にアップロードするだけで自動エンコード・配信が完了し、教材の差し替え・追加にかかる手作業がほぼなくなりました
- 全拠点で均一な教育品質を実現:国内外の全拠点が同じコンテンツをいつでも視聴できるようになり、拠点間の教育品質のばらつきが解消されました
「動画で何度でも確認できるようになり、わからない箇所があっても担当者を捕まえに行かなくてよくなった、という声が現場から上がっています」とご担当者からお聞きしました。
継続支援
現在は月次の運用レビューを通じ、エンコードパイプラインの稼働状況と視聴ログの分析を継続しています。今後は機材ごとの受講進捗と実際の操作ログを突き合わせた習熟度評価機能の追加を検討しており、教育効果の定量的な把握に向けた機能拡張を計画しています。